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札幌支部経営指針委員会 2023メールマガジン 第1号

2023.11.28(火)

「経営指針を語る」 第1回 
大平洋建業株式会社 
代表取締役会長 佐藤芳郎さん

経営指針委員会メールマガジン、今年度は石田製本株式会社の石田雅已社長と、私、有限会社トライアドの三原広聡がタッグを組んで担当させていただきます。
2023年度のテーマは温故知新。経営指針を知り抜き、実践し尽くした先輩経営者の言葉を皆さんにお届けして参ります。

第1回目は札幌支部経営指針委員を長く務めて下さった大平洋建業株式会社の佐藤芳郎会長です。
経営指針研究会では、レジュメに対する丁寧な分析と細やかな指摘で研究生諸氏を導いてくださる姿が心に残っています。今回は札幌支部経営指針研究会第一期生という大先輩の佐藤会長にとって、「経営指針」とはどういう存在かについて、お話をお伺いしました。
(文責 三原広聡)

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大平洋建業株式会社 取締役会長。札幌市南区にて建築・土木事業、不動産事業を営む。1963年に実父の佐藤孝氏が設立。今年設立60周年を迎えた。現在は社員の佐藤誠代表取締役社長に事業承継し、会長職として経営を支えている。
佐藤芳郎会長は第1期、佐藤誠社長は第9期の経営指針研究会修了生。
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1.承継させるからには苦労させたくないと思ったが…

【三原】
大平洋建業さんは5年前に3代目社長の誠さんに事業承継をなされて、佐藤さんは会長職となりました。佐藤会長ご自身は、40年前の初代から事業承継時に大きな負債があってかなり大変な思いをされたとお聞きしましたが、ご自身の事業承継は実際いかがでしたか?

【佐藤会長】
やっぱり社長を経営指針研究会に出したのが良かったです。彼はずっと技術畑で、現場を歩いてきたので、経営や営業の経験値や知識がありませんでした。色々な人と意見を交換したり、経営の基本を学ぶことが出来た経験は大きかったと思います。それでも任せられるようになるには足掛け10年掛かりました。知ることと実践する事は異なるし、実践を始めてもすぐに結果が出るわけではありませんから。最近は地道にやってきたことが成果を出し始めているようです。

【三原】
経営指針を学ぶと経営について共通の言語で話ができますからね。

【佐藤会長】
いざ承継となると会社を良い形で渡してあげようと思いますよね。会社が利益を出していないと渡しにくいし、あまり借金があっても嫌だろうなと思いましてね。承継前に会社所有の不用の土地などを処分して無借金での承継を目指しました。

【三原】
第三者承継ではとても重要ですね。

【佐藤会長】
ところが、渡した後に「この会社には資産がないのか!」と言われまして(笑) ああ、借金があっても資産があった方が良いのかって。今は社長の意見を取り入れて収益物件を所有しています。あと、私のように先代の息子だとね、親の借金は息子の借金みたいな思いもあるんだけれど、第三者に承継するときはそうはいきません。だから承継する前に経営の内容を明らかにしておくというのも大切ですよ。あと、経営者個人による役員貸付金など不明瞭な部分は承継前に極力処理しておいた方が良いです。今は連帯保証も有りません。

 

2.初めは手探りで経営指針を作ってみたものの…

【佐藤会長】
経営指針研究会ですが、私は第一期で、大野さん(株式会社ほりぞんとあーと)や後藤さん(株式会社エムジーコーポレーション)、澤田さん(故人 株式会社北日本工事測量)などが同期でした。当時はサポータもいなくて手引きを見ながら手探りで試行錯誤していました。それよりも、研究会ができる前から経営指針を作成していたのが田中傳右衛門(株式会社和光)さんです。まだ研究会がなかった頃、同友会で経営指針が必要だと言われてもどうすれば良いかさっぱりわからなくて、傳右衛門さんに教えを請いに行ったんですよ。

【三原】
田中傳右衛門さんというと知る人ぞ知るミスター経営指針ですからね。

【佐藤会長】
そうすると、50ページもある立派な経営指針書をドーンと見せられまして。これは凄いなと。すぐに真似して30ページくらいのものを自分で作ってみたんです。
ところが、ものすごく苦労して作ったつもりなのに全然浸透しないの。なかなか思った通りにならない。まあバブルが崩壊して拓銀が倒産したころで時期も悪かった。
この時、立派な計画だけ作ってもダメだなと思いつつ数年が経ちました。そんな中で経営指針研究会の第一期が始まることを知り、参加したんです。

【三原】
それまでとの違いってありましたか。

【佐藤会長】
やっぱり経営理念なんですよ。理念って時代に合わせて変わっていくべきだと思いました。いくら計画を取り繕っても理念がその時代に合っていないとダメ。そこで社員とも相談しながら、新しい、みんなで目指せる理念つくりを始めたんです。

 

3.経営指針の浸透方法も時代とともに

【佐藤会長】
あと、改めて経営指針を策定していくうちにふと思ったんですよ。経営指針書ってこんなに分厚くなくてもいいんじゃないかって。30ページもあったって社員が消化しきれないですよ。そこで考えたのがポケットに入るクレドカードなんです。その程度の分量でいつでも確認できるようにカードにして、持ち歩いてもらったらみんなも見るんじゃないかと。

【三原】
理念はもとより、その年の数値目標まで記載されている大平洋建業さんのクレドカードは初めて見せていただいた時ビックリしました。

【佐藤会長】
実は今はカードじゃないんです。LINE WORKSのシステムを使ってスマートフォンで見られるようにしているんですよ。今では個人の目標まで入れて、目標の進捗度合いや反省点などもチェックし、社内で共有できるようになっています。

【三原】
素晴らしいです。社員一人一人が常に経営指針を意識して行くどころか、工程や結果を共有して相互に確認し合うというのはすごいです。まさに経営指針の実践ですね。

【佐藤会長】
あと、今年からプロジェクトチーム(P/T)を作って運用しています。今の時代は不足しがちな人材リソースで会社を回していかねばなりません。技術の伝承は喫緊の課題で、高齢者の再雇用なども行っていますが、若い人材は急には育ちません。上から「やれやれ」とはっぱを掛けても上手く行く時代ではありませんから。社員一人一人の力を引き出す仕組みとしてスタートしました。
チームは3つありまして、経営計画P/T、IT化P/T、コミュニケーションP/Tとなっています。コミュニケーションチームでは若手が率先してバーベキュー会などを立ち上げてくれています。IT化P/Tでは現場監理の効率化ですね。図面データや工程をクラウド化して、社員も下請けさんもスマホやアンドパッド(建築専用端末)で見られるようにすることで、現場に行く回数や打ち合わせの回数を減らしたり、作業の正確な記録に繋げています。全て社員からの提案で実現しました。

【三原】
若い人のあしらいで悩む企業は多いですよね。働く時間や手取りばかり気にしたり、ちょっと叱るとすぐに辞めたり。

【佐藤会長】
若い人って色々言われていますけれど、ちゃんと話せば私たちと違う斬新な目線で考えてくれるんですよ。彼らの話を聞いていると、働き方にせよ経営にせよこれからの職場ではメリハリと効率を高めることが大切だと気付かされます。例えば、代金の回収について若い連中から「代金回収の機会を増やした方が良い」という提案が出たんですよ。

【三原】
それまたスゴイですね。

【佐藤会長】
経営の効率化を目論むなら集金もマメにした方が良いと。それは我々も解ってはいるけど、面倒だしこれまでの慣行や経緯もあると言うと、そこでITの利用を提案されるんです。彼らも良く考えていますよ。今では支払い方法や支払いサイトに至るまで彼らと話し合っています。社長が中心になってP/T活動を始めてくれて本当に良かったと思っています。

 

4.同友会を使い倒そう

【三原】
佐藤社長が中心となって会社がどんどん変わってくのは頼もしいですね。

【佐藤会長】
実際、社長に経営指針研究会で学んでもらって良かったと思っています。彼からの報告を受けることで自分の復習にもなりましたし、経営計画の作成一つとっても任せられるようになりました。昨今道内でも事業承継が大きな問題になっていますね。だまっていると人がいなくて廃業となってしまう会社も多い時代です。この状況に対して経営指針研究会が大きな役割を担えるのではないかと思うのです。事業の問題点を事前に明らかにできるし、次世代にも学ぶ機会を渡せます。

【三原】
心強いお言葉です。

【佐藤会長】
あと、同友会大学や経営者大学に行かせるのも良いですよ。

【三原】
勉強になると解っているのですが、遅くまで頑張る社員を見るとなかなか行けと言いにくくて。

【佐藤会長】
心配しなくてもちゃんと行ってくれますよ。うちでも部長や課長になる人には同友会大学に通ってもらっていますが意外ときちんと出席するんですよ。初めは「忙しいのに!」と反発するかと思ったんですが、出席するのもせいぜい月数回でしょう?負担というほどのものではありません。うちの社員も面白がって行ってくれています。
あと、同友会大学に行くようになると社員が新聞読むようになったんですよ。これまで業界の人としか付き合いが無かったわけですが、色々な方とお会いして、いろんな世界を見てくるわけですから視野が広がるんですね。技術バカにならないで済みますよ。会社から数人が通うようになると、最初に入っていた先輩が、後から入る後輩に同友会大学での学びについて教えたりフォローしたりしているんです。社内のコミュニケーションも活性化されて良いところ尽くしです。

【三原】
早速、社員に話をしてみます。今日はまさに「今すぐ実践できる」良いお話が満載で目から鱗が落ちました。佐藤会長、本当にありがとうございました。

<あとがき>
佐藤会長は経営指針委員の大先輩としても大変お世話になった方ですが、久しぶりにお話をお聞きして、常に経営を前に進める力とバイタリティに圧倒されました。インタビュー中は暖かなお人柄と溢れんばかりのアイデアに、とても楽しい時間を過ごせました。
皆さんも、この人の話が聞きたいという方がいらっしゃいましたら、是非リクエストしてください。三原か石田社長がお話をお聞きしに伺います。

経営指針委員会メールマガジン 2023第1号

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