「経営指針」(2) 魂のこもった経営指針作り
2020.04.07(火)
北海道中小企業家同友会札幌支部で、経営指針研究会がスタートしたのは2004年6月22日。その準備は2年前の2002年7月3日の「第一回経営指針づくり推進特別委員会」から始まっていました。
今回は、当時の札幌支部幹事長であり、経営指針研究会の発足メンバーである株式会社和光 田中傳右衛門会長に、「なぜ経営指針は必要なのか」というお話を伺いました。
着物の卸業・小売業の株式会社和光 代表取締役会長。 昭和23年生まれ。北海道大学薬学部卒業。大学卒業後、京都ウライ株式会社に入社し2年間の修行を経て、株式会社和光繊維(現:株式会社和光)入社。1980年、32歳の時に、鎌倉時代から400年にわたり代々続く、21代目田中傳右衛門に改名した。前北海道中小企業家同友会常任理事北海道障がい者問題委員長。 <株式会社和光のサイト> |
同友会の経営指針作りに魅かれて
株式会社和光の現会長田中傳右衛門さんが社長に就任したのは1980年でした。会社を経営するには、指針が必要だと思いすぐに経営指針を作っていました。
しかし、せっかく作った経営指針ではありましたが、社員には「絵に描いた餅だ」と言われる始末。経営指針を作ってはトップダウンで浸透させようとしたり、社員と話し合ってみたりしていましたが、浸透するには至りませんでした。「経営はなかなかうまくいかないものだな」と落ち込んだときもありました。
その後、当時の顧問税理士について「全社員参加型経営指針作り」に1年参加してみました。しかし、出来上がった指針は売り上げの数字作りや利益計画が中心で、経営指針に何かひとつ足りないと感じていました。何が欠けているのだろうか。当時作っていた経営指針にも、「経営理念」も含まれていましたが、社内に深く浸透することができていませんでした。
試行錯誤する日々で、気づいたことがありました。「自分が作った経営指針には魂が入っていないんだ」と。
そんな悩みを抱えているときに、中小企業家同友会の「経営指針作り」の話を聞きました。同友会の経営指針作りは、何よりも経営者の姿勢が問われる経営理念を大切にしています。「魂の入った」経営を行うには、「魂の入った」経営理念が必要だからです。そして、同友会の勉強会ではただ作るのではなく、経営者が自分自身のものにするために、議論を重ねながらブラッシュアップしていきます。
「時代が変わっても、経営の根本にある経営理念は変わってはいけない。そんな理念を作る必要がある」と、中小企業家同友会スタイルの経営指針づくりが、中小企業には一番合っていると田中会長は確信しました。
そうして、同じ志を持つ同友会の仲間と一緒に、札幌支部で経営指針づくり研究会を立ち上げようと準備を始めたのです。
最初の取り組みは、田中会長が所属している中央西地区会が中心になり、実験的に「経営指針づくりを学ぶ会」を1年間かけて行いました。2003年のことです。そして、翌年の2004年に第1期「経営指針研究会」をスタートさせることができました。この研究会は、誰かの指示で進めるのではなく、経営者たちとディスカッションをしながら、経営理念を中心に経営指針を作りあげるものです。
経営指針を作って会社経営はうまくいくのか
経営指針研究会を終えて15年ほど経ちました。当時、熱心に勉強して作った「魂の入った」経営理念や経営指針は間違っていないと、田中会長は静かに自信を持っています。
その想いは社長を交代した後も引き継がれ、現在でも変わっていません。
経営理念や経営指針は羅針盤のような役割をしており、常に経営する方向を微調整できます。自分の思い描く未来の会社と現状の会社とを照らしあわせ、ギャップを確認できるからです。
そのエピソードをひとつあげると、2006年から2008年にかけて、田中会長はどこか経営に集中できていなかったと言います。そのため、卸業から小売業の転換のスピードを早めなければならない時期に、躊躇して遅れてしまいました。この気づきがあるのも、経営指針があるからこそ。もし、経営指針がなかったら、うまくいかなった理由もわからないままかもしれません。
経営指針を浸透させる取り組み
現在、和光では経営理念を壁に貼り、朝礼のときに社員全員で唱和しています。経営を引き継いだご子息である現社長が、就任の初日から壁を背にして303文字もある経営理念を大きな声で暗唱しており、田中会長は自分よりも経営理念を理解しているのではないかとびっくりしたそうです。ひそかに現社長は完璧に暗記されていたのです。今では、社員全員が経営理念を暗唱できる状態になっています。また、3カ月に一回、全社員が集まって理念、経営指針、利益計画、個人の目標シートなどをまとめた経営計画書を確認しています。
理解の度合いは個人差がありますが、全員が必ず経営計画書に目を通しています。
社会の変化のスピードは速いので、事業は経営計画書どおりには進みません。また、経営指針があるからと言って、そう簡単に経営状況を良くすることもできません。ですが、目標と実績のずれを確認するためにも、経営指針づくりは会社経営に欠かせないものなのです。
これから経営指針研究会で勉強しようと思う方へ
「同友会の経営指針作りは、中小企業の状況に合っているから、同友会の会員さんには必ず参加してほしいと思っています。」と田中会長は言います。コンサルタント会社に依頼するよりも費用が抑えられること、そして同じ想いを持つ経営者が集まっていることが何よりも経営者の財産になるからです。そして、作りあげた経営指針を大事にし、社員の意見を徹底的に聞きながら、その指針に沿って粘り強く会社経営を続けていくことで、結果が出るのではないでしょうか。
田中会長が大事にされてきた経営指針研究会の場で、あなたも一緒に学び、自社の経営をよくしていきませんか?
取材・執筆:札幌支部経営指針委員会 副委員長 白藤 沙織
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