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札幌支部経営指針委員会 メールマガジン vol.12

2022.07.25(月)

経営指針委員会メールマガジン「月刊 経営指針」6月号
Vol.12(2022年6月30日 発行担当:経営指針委員会 副委員長 三原 広聡)

同友会札幌支部の会員の皆様
このメールマガジンは、札幌支部会員の皆様に月に一度、同友会活動の根幹となる経営指針成文化運動に関するさまざまな情報をお送りするメールマガジンです。
今期は第19期経営指針研究会の活動を通して、「経営指針作成ではどんなことをやっているのか知りたい」「もう少し気軽に経営指針成文化に取り組めないか?」といった会員の皆様のご要望にお応えしたプログラムをお送りいたします。

 

<経営指針の柱となる「経営理念」とは>

4月に第一講をスタートした札幌支部第19期経営指針研究会。6月はいよいよ各社の経営理念づくりに入っていきます。「経営理念」はご存じのように組織を経営する際の基本的な考え方と行動を成文化したもので、いわば会社の憲法ともいえるべきものでしょう。経営理念の作成をサポートする仕組みは世の中にたくさんあると思いますが、同友会で経営理念を策定する場合は「中小企業における労使関係の見解(通称 労使見解)」の理解と実践を通して作り上げるところに大きな特徴があります。研究生は6月に一度、経営理念を策定しますが、日々修正を繰り返し、1年間をかけて完成させていきます。

また、同友会の経営理念づくりの大きな特徴として、経営者と創業者そして従業員の三者の想いを汲みながら作り上げるという点もはずせません。経営理念は経営者が従業員に押し付けるものであってはいけないのです。

経営理念には目的理念と行動理念があると言われます。目的理念とは、この世にその企業が存在する理由であり、経営を続けるための基本的な立ち位置や考え方を指します。行動理念は、例えばかつての家訓や「電通鬼の十則」のように社員の行動を規定するものです。経営理念にはどちらも大切なのですが、経営者はとかく行動理念に注視しがちで、そこは気を付けたいところです。

経営理念の策定は大変な労力を必要としますし、作成中に自己変革を意識しやすい部分でもありますから、かつては札幌支部でも「経営指針」=「経営理念」的な風潮もありました。実際、経営指針研究会の活動のほとんどを理念づくりに充てることもあったようです。今ではあくまで「経営理念」は「経営指針」の基幹部分ということで、「10年ビジョン」や「経営方針」、「経営計画」との整合性が重視されています。

 

<経営指針つくりの道筋>

もう少し経営理念つくりの話をさせてください。同友会(中同協)発行の「経営指針成文化と実践の手引き」では、経営理念策定のために「経営理念検討シート」を用います。このシートには以下の7つの設問が用意されており、これらに丁寧に答えていく事で自社の経営理念を策定するのです。

1. 何のために経営をしているのか
2. 創業時(継承時)の精神は何か、決意・思いは何か
3. 自社の固有の役割は何か
4. 大切にしている価値観、人生観
5. 取引先、顧客に対する基本姿勢
6. 社員に対する基本姿勢
7. 地域社会や環境に対する基本姿勢

多くの研究生は1の設問で戸惑ってしまいます。いや、経営理念を作り、見直している指針修了組の我々もそれは同じです。このような本質的な問題を深く考え抜くことに意味があるのですね。設問の3と5と7は従業員と一緒に考えるように求められています。経営理念は社員とともに作るというスタンスが表れている部分です。

 

<実際の研究会の模様は…>

さて、今回も研究会の現場を取材してまいりました。経営理念の策定は第5講・第6講となります。今回お邪魔したグループは、同友会活動も長く、すでに良い経営を実践されているベテラン経営者から、ひとり経営者まで実に多彩な顔触れとなっていました。

一人目の発表者、Aさんはテック系の会社を一人で切り盛りするいわばひとり社長です。経営理念検討シートはいかにも技術系といった感じで、箇条書きですっきりとまとめられていました。
発表を終えたAさんですが、書いては見たものの腑に落ちないのか、早速メンバーの研究生に質問をはじめました。
「自分は今一人なのでこの形になったのですが、社員ができたら変えていくものなのでしょうか?」

確かにAさんの記述は簡潔ですが、「自分が〇〇したい」という主観的な記述が目立ちます。そこで、すでに一度経営理念を作ったことのあるBさんが返答しました。

Bさん「自分が以前作った時には、作ったことに満足しちゃって浸透できなかったのですよ。人のモノの見方や考え方は変わっていくものだから、変わらないものを理念に落とし込むことが必要なのでは?」

Aさん「ブレない何か…ということですか?」

Cさん「自分がブレた時の道標だと思います。社員と一緒に作るとまた変わるでしょうし、節目節目で見直すものだと思います。」

ここで、経営経験の深いDさんが一言。
Dさん「その人の本質は絶対に変わらないと思う。理想的には理念に反対する社員はいらない。経営とは理念を体現するために行うものでしょう。」

すこし誤解されそうな発言だったのでサポーターがすかさずフォローします。
サポーター「そうですね。うちでも採用の時には面接で必ず経営理念について説明します。それをわかってくれる人を採用しますね。」

このチームは一人当たり90分間、このようなやり取りを通して議論を深めていました。早速、研究生から「なんか理念に割く時間短くないか?」「これは簡単にはできないわ」という話も飛び交い、サポーターが「1年間かけて考え続け、どんどん変えていっても良い」と伝えていました。

さて、Aさんの「何のために経営をするのか」の欄には「その仕事が好きだから」と書いてあり、それも物議を醸しました。そこには仕事の達成感や自身の技量向上への想いも込められているのですが、メンバーから何故好きなのかをもっと深堀したほうが良いとアドバイスされていました。Aさんの経営理念をめぐる旅が今まさに始まったのだと感じました。

二人目の発表者、Cさんは士業事務所を経営。経営理念検討シートを見るとびっしりと文章がしたためてあり、Aさんとは真逆に「お客様」を中心とした記述が多いのが目につきます。発表の後、Dさんが口火を切って質問を始めました。

Dさん 「何のために経営をしているか」の欄に「経営者の一番の相談相手になりたい」とあるけれど、ニーズのない経営者はどう切り崩す(顧客化する)の?」

Cさん「切り崩そうと思っていない。無理をして新規をつくるより今のお客様をしっかり守る方針です。その意味ではできる限りのことをしますが。」

※このままCさんとDさんが応酬。サポーターが絶妙に方向転換を示唆しました。

サポーター「さて、みなさんも3番5番7番の設問は社員さんと一緒に考えましたか?」

Bさん「社員一人ずつ聞きました。複数名一緒に聞き取ると、声の大きい社員に流されてしまいますからね。」

サポーター「Cさんも社員と一緒に考えたと仰っていましたが、社員の意見を十分に聞ききれなかったのでは?」

Cさん「確かに自分に並ぶスキルの社員はまだいないので…ただ、同じ思いで仕事をしてくれていると思います。」

このような感じで、研究生全員が時間を忘れて議論に没頭していました。

経営理念は経営指針の柱となる大切な部分だけに、やり取りにも熱がこもり、経営者の心の奥底までを晒すような部分も出てきますね。この辺も「経営指針」のハードルの高さと思われているようですが、実際にはお互いを信頼したうえで内容の濃い議論をしているというのが一番近いイメージなのです。そして、確かに経営指針作成は一人でもできるかもしれませんが、仲間とのやり取りがあるからこそ「自分の本心に気づき」「内容をより深く掘り下げられる」のも事実でしょう。

次回は「10年ビジョン」発表中のグループに取材してまいります。ご期待ください。

 

<今期の経営指針委員会、もう一つの課題>

実際の経営指針研究会は、このように研究生となる経営者同士が、サポーターの支援を受けながら学び合う会なのですが、よく耳にするのが「敷居が高い」「怖いイメージがある」といった評判です。近年は「もう少しライトな勉強会にできないか?」「もっととっつきやすいものにならないか?」といったご希望も頂いています。

現状の研究会がこのように「情報を包み隠さず出して、本音で語り合う」スタイルのため、その簡素化は大変難しい課題ですが、今期はプロジェクトチームを策定して、その方策を考えていく事になりました。プロジェクト担当副委員長の植田社長よりロードマップが提示された段階ですが、こちらの進捗もこのメルマガでご報告していこうと思います。

 

札幌支部経営指針メルマガvol.12(2022年6月号)

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