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札幌支部経営指針委員会 2024メールマガジン 第1号

2024.05.08(水)

「経営指針を語る」 第2回 
株式会社井上技研 
取締役副社長 犬嶋ユカリさん

経営指針委員会メールマガジン、「経営指針を語る」第2回は株式会社 井上技研の犬島ユカリ副社長です。
経営指針研究会1期生でもある株式会社ほりぞんとあーと 大野社長にご紹介をいただき、研究会入会から経営理念作成までのご苦労、「女性目線の建設業」を掲げる独自の経営スタイルの確立に至るまでのお話を伺ってきました。
(文責 石田雅巳)

—– <犬嶋ユカリさんプロフィール>————————————————————————————————————-
株式会社井上技研 取締役副社長
東京の大手ゼネコンに勤務後、父の経営する株式会社井上技研に入社、
その後、専務取締役を経て、現在は取締役副社長
経営指針研究会第2期修了生
【会社概要】
創業1985年3月25日 父 井上英雄様が創業 現社長はご主人の犬嶋清幸様
主要事業:特定建設業 新築工事 改修・解体工事
主要得意先:札幌市内の小中学校・施設、認定こども園・特別養護老人ホーム、保育園・幼稚園、JR北海道グループなど
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1.研究会入会のきっかけ

【石田】
研究会入会を決めたのは?

【犬嶋副社長】
きっかけは明確でした。創業者である父が1995年に他界、創業から10年目のことでした。専務に就任したのはその時です。新社長とともに経営をどのように進めていくか、方向性を模索し悩んでいた時期でした。もともと父の作った経営理念もありましたが、現社長の経営理念はまた違うのではないか感じ、時代の変化に合わせてきちんと見直す必要があると思い入会を決めました。本来は社長が行った方がよかったのかもしれませんが、社長との間で「まずはあなたが行って、学んできたものを共有していこう」ということになり私が参加しました。誰かからのお声がけではなく同友会のチラシを見て自分の意思で入会しました。

【石田】
入会のきっかけや動機は人それぞれですよね。私は19期生で年齢もいっていたのですが、やはり自社を点検し見直したい、という思いで入会しました。

【犬嶋副社長】
当社で新卒採用を開始してからそれこそ19年目になります。最初は勝手がわからず、泣きそうになりながら手探りで、事務局や先輩企業のみなさんにも教えていただきながら始めました。研究会入会はそのタイミングでもありました。そこ(経営理念)が固まっていないと新規採用もできないのではないか?と感じたのです。自社の軸を作る、という感じで。先輩方の厳しい叱咤激励や、事務局のご支援などそれがなかったら今はないと思います。

【石田】
1グループのメンバーは何名ぐらいでしたか?

【犬嶋副社長】
6~7名だったかと思います。株式会社岩崎の古口さん、京呉服さい藤の齋藤和子さんが同期でいらっしゃいました。

【石田】
研究会の雰囲気はいかがでしたか?かなり闊達に、侃々諤々と意見が交わされたことと思いますが。

【犬嶋副社長】
1期生が務められたサポーター先輩がとにかく強烈でした。当時は母の見守り介護もあり、その中で仕事もこなさなければならず結構忙しく、正直一杯いっぱいでした。一泊研修のときだったかと思いますが、前回欠席したらサポーターから「そんなことではキチンとした経営理念は作れない、そんな甘いものじゃない」と厳しくご注意を受けました。正直なところ「1日24時間しかない中で精一杯頑張っているのに」と言いたかったんですが、「会社の羅針盤」ともいうべき経営理念を作り変えようとしているのだから、先輩方の仰っていることは間違っていないと改めて感じました。大人になると真剣に注意をしてくれる方ってなかなかいらっしゃらないので、率直に言ってくれたことに感謝しています。

 

2.経営理念作成から社員さんへの浸透へ

【石田】
経営理念はどのように作成しましたか?

【犬嶋副社長】
父の理念は時代が変わっても変化してはいけない普遍的な部分も多く、そこは大切に受け継ぎ、時代の変化に対応した部分を付け加えて完成させました。

【石田】
カリキュラムの課題シートに沿って社員さんとともに作っていくわけですが、その中でのご苦労は?

【犬嶋副社長】
最初は年齢の高い社員、といっても40代半ばぐらいだったと思いますが、相談しても中々かみ合わず、しまいには「専務、またどこでそんな病気もらってきたんですか?」と言われる始末(笑)。色々反発もありましたが、それでも苦労して考え抜いて作った経営理念はやはり「会社の羅針盤」、何を言われようと明確に繰り返し開示し、月に1回の会議で唱和するなどして、怒涛の日々というか本当に大変でしたが、時間をかけて浸透させてきました。今では社員が同友会や外部のセミナーで経営理念を空で言えるようになりました。
新卒採用者がある程度定着してきたからだと思いますが、今の経営理念は若い人には入りやすいのでしょう。それがあるからこそ同じ方向を向いて仕事ができると感じてくれていると思います。

 

3.ピンチをチャンスに、会社の強みをアピール

【石田】
「女性目線の建設業」を掲げられていますが、どういう思いが込められていますか?

【犬嶋副社長】
十数年前に売上が40%ダウンし、大きなダメージを受けました。翌年には回復したのですが、ピンチをチャンスに変えるべくもう一度会社を作り直す必要があると感じました。
同友会でご縁のあった大学の先生からご指導を受け、女性の中小企業診断士のご紹介を受けました。その方から会社の強みを明確に出す必要があるとアドバイスを受け、他社との違いをアピールするために「女性目線」という言葉にたどり着きましたが、正直最初は自分の中で抵抗はありました。

【石田】
それはどうしてですか?

【犬嶋副社長】
私は最初東京のゼネコンに勤務し、総務・人事など事務職が多い中、女性として初めて建築部積算課に配属になりました。当時は女性「活用」の時代でその会社の第1号でした。その中で厳しさも学び、今の会社に入って営業もやり経理もやり、人が足りなければ場合によっては現場もとこなしてきましたが、札幌は東京に比べて女性に対して業界がとても厳しいと感じたんです。今は時代も変わりましたが、当時は「女のくせに」の風潮が強かった。それが自分の弱さにもなっていて思い切って出力することができませんでした。
ある時、他社との違いは「それは専務、あなたですよ」と診断士さんに言われました。自身の経験から「女性の目線」というものを前面に出していく、それを言葉にして出していかなくてはならない。診断士さんとの侃々諤々のやり取りの末、肚落ちし決めました。かつての女性活用から、今は女性「活躍」へと、時代の変化に対応できているかと思います。

【石田】
新卒採用時、応募者から「女性目線」について聞かれますか?

【犬嶋副社長】
面接時に「女性しか採用しないんですか」「男性は冷遇されるんですか」と聞かれたりしますが、男性女性フラットにということです。採用でも社内でも。
お客様に対しては、発注者であるお客様は男性、設計者も男性、建築も男性、でも実際にそこに住んだり働いたりする建物は女性も入ってくるので女性の目線が入らないといけない、そういった「女性目線」は大きな強みになる。女性が輝く=男性が活躍できる、それに社員と共有してやってきました。
時代は変わったなと思うのが、昨年入社した男性社員になぜ当社を選んだのかと尋ねると、女性が働きやすいとか女性が輝くということはすなわち男性はもちろん働きやすいだろうなと思ったと答えました。企業説明会はオンラインで行なっていますが皆同じことを聞きます。若い男性の意識も変わってきているんだなと感じます。稼ぎたいと言う人はあまりいないですね。

【石田】
社員さんの男女比はどのくらいですか?また、女性社員が多いということで産休・育休制度は?

【犬嶋副社長】
構成比は男性5:女性3で、建設業の中では圧倒的に女性比率が高いです。定着させるのは大変ですが、その中で例えば入社7年目の社員は資格を取得し所長となり次の目標に向かっている、そういう人材が出てくることは幸せだと感じます。
もちろん育休制度は整備しています。女性社員ではまだ取得した人はいませんが、入社3年目の男性社員が育休1カ月取得しました。それにより奥様が会社に対して理解を深め、かつ本人も子供への愛情や子供を育てることの大変さがわかったと言います。それからは仕事を短時間で効率的に早く終わらせて帰宅し子どもとの時間を大切にし、結果的に生産性向上の意味でもとても大きなことだったと思います。

 

4.経営指針をこれから学ぶ方へのメッセージ

【石田】
その方がいいモデルになり広がっていくといいですね。最後に、これから学ぶ研究生へのメッセージをいただけますか。

【犬嶋副社長】
同友会の良さということにもなりますが、経営者同志が議論を重ねることは他では中々ないこと。教えてもらう部分も大切にしながら、自分の意見も聞いてもらう中で議論を積極的に重ねていくことはとても大切な時間だと思います。先輩方と相対する時に最初は委縮したりしましたが、自分の考えや意見はキチンと伝える、伝え方を学ぶことにより社員とのコミュニケーション力を磨くことができたと思います。
中小企業の良さは常にトップを近くに感じられること。当社の社長はユニークで話しやすい、わからないことを聞きやすいというのが社員たちの言葉です。

【石田】
貴重なお話をお聞かせいただき、ありがとうございました。

<あとがき>
「経営理念は会社の羅針盤」と何度も繰り返しておられたのが印象的でした。
志高く苦労して経営指針を作り、ピンチをチャンスに変えるべく自社の強みを見つけ社員さんと共有し会社の文化を作る。私自身にとっても多くの気づきを得た貴重な時間となりました。

「経営指針を語る」第1回はこちらからご覧いただけます

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